「また値上がりしてる……」
スーパーに行くたびにそう感じる人は、決して気のせいではない。現にこの6月も更に様々なものが値上げになった。ここ数年で日本の物価は確実に、そして静かに上がり続けている。一人目の子を産んだ10年程前、ミルクもオムツもこんなに高くなかった。毎月の負担がかなり増えてる。給料や育休手当はそれに対応できるほど上がっていないのに、だ。
でも「なぜ上がるのか」「いつまで続くのか」「実際にどれだけ家計が痛んでいるのか」を整理して理解している人は意外と少ない。
今回は感情論ではなく、自分の気持ちを落ち着かせるためと勉強のために、データをもとに「物価高の現実」を書き留めておきたいと思う。
まず、今の物価はどれくらい上がっているのか
総務省が発表した消費者物価指数(2026年3月)では、食料品全体の指数は2020年を100として129.5まで上昇している。6年前と比べて、食品の価格水準は約3割跳ね上がったことを示している。
「前年比でどれくらい上がったか」という数字を見ると、生鮮食品・エネルギーを除いたいわゆる「コアコア」指数は前年同月比2.4%上昇。日本銀行の2026年4月展望レポートでは、今年度の消費者物価(生鮮食品除く)は2%台後半で推移するとの見通しが示されている。
「2%台くらいならまあいいか」と思うかもしれないが、それは去年も、一昨年も同じことを言いながら価格が上がり続けてきたということ。インフレは「累積」するものであって、今年2%上がることは、すでに上がりきった価格からさらに2%上がることを意味する。その感覚が、「値段が下がっていないのに数字は落ち着いてきた?」というチグハグな体感につながっている。
家計への影響、具体的にはどれくらい?
第一生命経済研究所の試算によると、4人家族で見た場合、2025年は前年比15.3万円の負担増。2026年はさらにそこから8.9万円の増加になるとされている。2年合計でおよそ24万円、月換算で2万円の出費増というのが実態だ。
総務省の家計調査(2025年平均)では、二人以上世帯の食料支出は月平均94,895円、エンゲル係数(食費の支出に占める割合)は28.6%で、前年から0.3ポイント上昇している。さらに光熱・水道費は月平均24,547円。食費と光熱費だけで月12万円近くが飛んでいく計算だ。
そのうえ、2026年2月時点の家計調査では二人以上世帯の消費支出は289,391円で、実質1.8%の減少。つまり、名目上の支出は増えているのに、実質的な購買力は下がっているという状況が続いている。
なぜ物価は上がり続けているのか
「物価高」と一口に言っても、その原因は時期によって変わってきた。
当初は、コロナ禍からの経済回復に伴う需要増加と、ロシアのウクライナ侵攻による食料・エネルギー価格の高騰が主な要因だった。小麦、大麦、とうもろこしなどの主要穀物はウクライナ・ロシア産が多く、戦争による供給減が世界市場を直撃した。円安も輸入コストを押し上げた。
しかし2026年の状況は少し変わってきている。帝国データバンクの調査によると、2026年の食品値上げの主な要因として原材料高が99.9%と相変わらずトップだが、次いで人件費が66.0%(過去最高水準)、物流費が61.8%とサービス由来のコスト増が台頭してきた。一方で円安を要因とした値上げはわずか1.6%と過去最低水準。外的ショックから、国内の賃金・物流コスト増による「内圧型」の物価高へと構造がシフトしている。
これが何を意味するかというと、「円高になれば解決する」という単純な話ではなくなってきているということだ。日本国内の賃金が上がり、物流コストが上がり、それが価格に乗ってくる。これは一種の「賃金と物価の好循環」の一面でもあるが、家計の痛みとしては容赦なく直撃する。
少しだけ明るい話もある
2026年春の値上げ品目数は684品目と、前年同月(2,529品目)から約73%減少した。「一斉大量値上げ」の波は落ち着きつつあり、2025年のような毎月1,000品目超の値上げラッシュは一段落した可能性がある。
また、賃上げについても明るい数字がある。連合の2026年春闘集計では賃上げ率が5.08%と、3年連続で5%台の高水準を維持している。300人未満の中小企業でも4.84%と健闘しており、「物価高に追いつく賃金」という状況が少しずつ整いつつある。
政府の物価高対策として、電気・ガス料金への支援策(2026年1〜2月使用分は電気低圧4.5円/kWh補助など)や、高校授業料・給食の無償化等の施策も組み合わさっている。これらを合算すると一定の家計負担軽減効果はあるが、「物価高そのものが解消される」わけではない点は押さえておく必要がある。
「元の値段には戻らない」という現実
値上げ品目数が減ることは、確かに安心材料だ。しかし誤解してはいけないのは、品目数が減っても価格水準は下がらないという点。129.5という食料品指数は、値上げの「ペースが落ちた」だけで、価格は高いまま定着している。
実際、プライベートブランド商品や代替品の需要が増えている現象がそれを裏付けている。消費者は「安いものへのシフト」で対応せざるを得ない状況に追いやられている。
「節約を頑張れば何とかなる」というのは、数字を見れば幻想だとわかる。月12万円の食費・光熱費を「気合いで削る」のは、家族の健康や時間、精神的ゆとりを削ることと表裏一体だ。節約が悪いのではなく、「節約だけで乗り切れる水準をもうとっくに超えている」ということを、まず直視することが大事だと思っている。
おわりに
物価高に正直、慣れていくしかない部分もある。ただ、「なぜ高いのか」「どのくらい高いのか」を知ることは、無力感から自分を守る最初の一歩だと思っている。
数字を見ながら、できる範囲で賢く対応していく。それが今の時代に必要な「家計管理」の姿勢かもしれない。
医療職は、頑張れば収入が上がるという単純な職種ではない。得られる収入は診療報酬で決められているから。しかし、治療に必要な物品や光熱費などのコストは上がっている。そちらに支出が当然増えていくので、人件費に回す分など更に減っていく。ここで人件費まで増やしたら病院が倒産して働き口を失うという本末転倒な事態になる。このジレンマがあることを分かってはいるが、「やめればいいじゃん」という問題ではない。私は看護師は続けたいし、その理由で離職する人が増えたら日本の人口を更に減らす一因にもなってしまう。人々の健康を支える看護師たちが希望をもって働ける環境にしていくにはどうしたらいいのか、いつも考えている。
参考:総務省「消費者物価指数」(2026年3月)、総務省「家計調査」(2025年平均・2026年2月)、日本銀行「企業物価指数」(2026年3月速報)、帝国データバンク「食品値上げ動向調査」(2026年)、第一生命経済研究所試算、連合「2026春季生活闘争 第4回回答集計結果」
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